罔象の杜
おすすめ度:★★★★★
作者:またんご8
深い森が大陸を覆い、森を蠢く魍魎に人々は怯えて暮らす。僅かな領土を巡り国々は有史以前より争って来た。歴史の陰にて傍観を続ける一族、森渡りの青年は国々を渡り、事変に巻き込まれ、大切な人々の為に争って行く。
怠惰な男が責任を学ぶ、虱と泥に塗れた観光ファンタジー。
誰にだってプライドはある。その高さは人それぞれだけど。
ある事件により自信を失った完璧超人が、嫁達との交流を経て徐々に人間的に成長していく物語。それだけ能力のある人間がどうしてそんな卑屈なんだとも思うけれど、それは追々分かってくる。共感できるかは「あなた」次第か。
基本的に主人公のスペックはワンマンアーミーレベルなので、主人公の視点ではハラハラする心配もなく、安心して読める。一話あたりの文量が多いのがなろう読者やスマホスーザーには辛いか。
圧倒的な力と知識で世界を巡っていく様は爽快。一話あたりの文量で倦厭してしまうのはもったいない一作。今後の展開がどうなるっていくのか、期待したい。
罔象の杜を読んでみる
婚約者は、私の妹に恋をする@小説家になろう
おすすめ度:★★★★★
作者:はなぶさ
ああ、またか。私の可愛い妹を見つめる、私の婚約者。その冷たい目に灯る僅かな熱量を確かに見たとき、私は既視感に襲われた。かつての人生でも、私の婚約者は私の妹に恋をした。私はただそれを見ていることしかできなかった。そして、そんな私は、何の因果か、同じ時を巡る人間だった。
☆6月9日にKADOKAWA様より書籍化。☆12月9日に2巻が刊行されます。本当に有難うございます。
どんなに違う過程を辿っても、結局行き着く最期は同じなのか。
表に出てくるものは時期流行った婚約破棄ものではあるものの、他とは一線を画する人物描写と心理描写に圧倒される。何度転生しても想い人と結ばれぬ上に悲惨な目に会う主人公の視点で読んでいくと、主人公の周りの人物達の無理解がなんとも読んでいて辛い。しかし、話が進んでいくうちにその態度にもそれぞれに背景が見えてくるようになってきて……。
決して幸せで、ハッピーな気分で読める物語ではない。しかし、読んで心を揺さぶられる作品だ。テンプレ作品に飽き飽きしているなら、ぜひ読んで見るべき一作。
婚約者は、私の妹に恋をするを読んでみる
Doggy House Hound
おすすめ度:★★★★★
作者:ポチ吉
五百年の月日は少年から記憶を奪った。
コールドスリープにより記憶を失ったトウジは背負った借金を理由に歩兵となることを義務付けられた。
強化外骨格を身に纏い、モノズと呼ばれる球体のロボットを友として、荒野へと変わった地球でトウジは敵性宇宙人と戦い続ける。
配られた鬼札は平和な時代では開花することの無かった狙撃手としての才能。
――荒野で少年は猟犬を継ぐ。
(カクヨム様にも投稿しています)
人以外が人のような振る舞いをするとして、その信頼を得るとはどういうことなのか。
目が覚めたらいつの間にか500年も経っていて、人権やらなんやらが忘れ去られた世界で兵として育てられて、人類や人類以外と話したり作ったり戦ったりして交流していくSF。完結済み。
主人公の連れ合いのロボット(?)たちとの掛け合いが楽しい。徐々に主人公と信頼が形成されていき、であるからこそのラストの展開が良い。
全部順調に物語が進まなければ嫌だ派や、ラストはハッピーエンドでないとと嫌だ派には、そこかしこに心が折れそうな描写があるが、せっかく完結しているので、その程度は乗り切って楽しんでみてほしい一作。
Doggy House Houndを読んでみる
サラダ・デイズ/ありふれた世界が壊れる音@ハーメルン
おすすめ度:★★★★☆
作者:杉浦 渓
マクゴナガル先生のグリフィンドール生時代や、ハリーやロンの親世代を含みながら展開するオリジナル主人公の物語です。
一応女の子ですので、ほぼハーマイオニー視点と交互に進みます。
活躍する女の子たち、情けない男子たち。
J・K・ローリング著『ハリーポッター』シリーズのオリジナル主人公系二次創作。原作知識・転生は無し。オリジナルな主人公を介入させるために過去から未来まで大胆に世界観を変えており、原作の魔法界の「アレ」っぷりを真っ向から否定しようとしてる。
ちょくちょく出てくるイギリス年代ネタも良い。
このような世界観を作っていく作品を私は面白いと感じており、三度ほど繰り返し読んでしまった。主人公の活躍っぷりは小気味よい分、恋愛系の部分になるとヘイトを稼ぎすぎているんじゃないかと思い、今後の展開が凄まじく不安になっている。
2019年2月19日現在、死の秘宝編が始まっている。ハリポタ二次創作的にはエタの山場である謎のプリンス編は超えているので、完結までを楽しみにしたい。
今は千年ほど昔@小説家になろう
おすすめ度:★★★★☆
今は千年ほど昔
作者:田村邦夫
山道を歩いていたら千年昔の関東に来てしまった主人公アキラ。足利荘の屋敷に拾われた彼は戸惑い苦しみながら半年を生き延びたが、アキラにも、平安時代中期の関東平野にもやがて春はやってくる。
時は摂関時代、国風文化の盛り。地方では律令制の行政官である受領がはばをきかせる一方、武士たちは勢力を拡大し続けていた。田畑は荒廃し、庶民は麻しか着るものが無く、生まれ変わりを信じ、挨拶も敬語も、儀礼は内裏の中にしか無い時代だ。
平安時代の真ん中の一見平和に見える東国に、波乱の予感がアキラにも感じられるようになる。血と暴力、悪鬼と疫病、風雅と迷信、貧しく不潔な平安の世をアキラは成り上がり生き抜く。
平安転移知識チート、隠し味もあるよ。
日本の平安時代に転移してしまった中で、日々の暮らしをどうにかしようともがいてもがいて、なんとか生きていこうとしていくお話。全体の話は面白いのに、口語文の中で会話だけが古語文語調なのが可読性を損なっている。そこを乗り越えられれば楽しめると思う。
チートものではあるものの、降り掛かってくる物事の悲惨さが一線を画してるように思う。成したことが無かったことにされるのってチートものとしてはなかなか酷な展開……。
2019年2月17日現在、そろそろ完結しそうなのでおすすめ。
……あれ、あの出来事はどうなったんだろう?
異世界で人を斬る@小説家になろう
おすすめ度:★★★☆☆
作者:きりん
私は人斬りサイコパス殺人鬼女子高生だった。
それが何の因果か、異世界の国カステルラントに召喚されて人斬りサイコパス殺人鬼勇者にジョブチェンジした。
紆余曲折を経て今は、カステルラントと領土を接する別の国ルートリーマで、ただの人斬りサイコパス殺人鬼として生きている。
ある時助けた女の子みたいな男の子が、お家騒動で兄王子に絶賛命狙われ中の、カステルラントの王子様だった。
その王子様をカステルラントに送り届けることになった。
殺し合いに魅入られた私と、そんな私の手を握った王子様のお話。
とりあえず、誰から殺そうか。
人を斬りたいと思うのは罪なのか。
人斬り無双系アクション小説。完結済み。サクッと読める。基本的に人の命が軽かったり、助けた女の子みたいな男の子を改めて男の娘にしたりとなかなかぶっ飛んではいる。しかし主人公がブレず、展開も王道なので、ぶっ飛んだ「スパイス」な表現が気にならなければ手軽に楽しめるのではないだろうか。
異世界で人を斬るを読んでみる
エリスの聖杯@小説家になろう
おすすめ度:★★★★☆
作者:常磐
スカーレット・カスティエルは、類稀なる美貌と、由緒正しき血統と、圧倒的なカリスマでもって社交界の至宝と謳われていた―――くだらない嫉妬に狂い、さる下級令嬢の暗殺を企てるまでは。
その罪により、彼女は王太子殿下から婚約破棄を申し渡され、挙句の果てには民衆の目の前で断罪されることとなる。哀れにも、斬首という形で。齢十六にしてスカーレットはその苛烈なる生涯に幕を下ろしたのである。
◇◇◇
それから十年。地味でパッとしない子爵令嬢のコニーは、不運にも婚約者の不貞を目撃していた。さらには浮気相手の狡猾な罠に嵌まり、婚約破棄という絶体絶命のピンチを迎えてしまう。たいした身分も後ろ盾もなく、特別見目麗しいわけでも、ましてや人望者でもない彼女に手を差し伸べる者などいるわけもなく、すべてを諦めかけた瞬間―――【その声】は、突然、コニーの世界に飛び込んできた。『いいわ、助けてあげる。でも、その代わり―――』
これは成り行きで希代の悪女の復讐につき合うことになってしまった、どこにでもいるような平凡な少女の物語。
※残酷・流血描写があります。倫理的に問題のある表現も出てくるかもしれませんのでご注意ください。おっけー何でもばっちこいな心の広い方向け。
地味系貴族少女と堅物系鈍感男の恋愛もの……のようなサスペンス作品。ざまあ系かと思いきや、結構しっかり練られた陰謀モノ。あらすじに出てくる「狡猾な罠」の程度に不安になるが、それを吹き飛ばしてくれるぐらいの展開を見せてくれる。どうなるんだ?どうなるんだ?とワクワクさせてくれると思う。え、ジャンルが恋愛……?スパイスかな。
エリスの聖杯を読んでみる